モスラ(ナガサキアゲハ)その後 - 完結編

自然が一枚上手(うわて)だった!

5月13日(日)晴れ 恒例の地域農道水路整備の日で早朝から作業。思ったより早く終了したお昼過ぎ、やれやれと汗ばんだ作業服を道具小屋の壁にいつものように戻していた。

その時、何かがいつもと違うことに気付く。ほんの少し、いつもと何かが違う。自分の左目網膜の周辺視野がそれを感じた。「・・・・!」一体、何がどう、いつもと違う気がするのか? 顔を戻す動作を同じようにスローでリプレイして見る。 いつもと変わらない作業小屋の板壁の風景。

 

服や帽子を掛けるフックが付いた長い角材には適当な間隔で何かしらの仕事着が掛かっている。その左端には、昨年9月に蛹になった以降全く変化がなくて生きてるというオーラもなく、どうやらその成長過程で何かがあって、残念ながら死んでしまったと思われるモスラ、ナガサキアゲハの蛹。

 

「もし、蛹で越冬するなら、来年のツツジの花の咲く頃と思ってください。」(ブログ[で、モスラは一体どうなったのか?]より)

と、たびら昆虫自然園の園長、西澤さんから昨年9月にお話を頂いていたのだが、ツツジの時期になっても一向に変化がない。ある意味もう、諦めているいつもの相変わらずの黒灰色のモスラの蛹があるだけ…!???

いや、違う!、アレ?、何か違う! 蛹の様子が何か変! まず見た目、下部が茶色に変色してる。それからどうも全体として質量がない感じ? 最後にその様子を確認したのは4月29日。その時は全く相変わらずの様子だった。

モスラは小屋の軒下、作業服を掛ける角材下にずっといた。真ん中上、角材の下がサナギ。
モスラは小屋の軒下、作業服を掛ける角材下にずっといた。真ん中上、角材の下がサナギ。
4月29日のサナギの様子。依然として変化はない。中身も詰まってる感じ。
4月29日のサナギの様子。依然として変化はない。中身も詰まってる感じ。
5月13日、何か以前と比べて全体が茶色い。また、軽っぽい。上画像と比べると明らか。
5月13日、何か以前と比べて全体が茶色い。また、軽っぽい。上画像と比べると明らか。

細心の注意で触って見る。するとどうだ! 上部に流線型にカーブした細長い見事なデザインのハッチのようなものがきれいに開いて中が見事に空洞!もぬけの殻だ!「うぎぃ~~~!こ、これはどういう事なのだ!」 

これはつまり、ナガサキアゲハは死んではいなかった? 見事に越冬に成功したということ? いや待てよ?、寄生ハチが成長して見事に出て来たとも考えられる。「あちぃ~~、ずう~と観ていたのに何たることだぁ~!」

恐る恐る触って見ると、ハッチのように一部がきれいに空いている。中は空洞だった!
恐る恐る触って見ると、ハッチのように一部がきれいに空いている。中は空洞だった!

ともかく今判る事実は、今年4月29日以降~5月13日の間、GWを挟む気候の良いこの時期に、何かがこの全く生きた感じが何処にもなかったモスラの蛹から、自分などに全く気付かれることなくひっそりと外部へ出たということ。おマヌケな自分はその決定的瞬間を見逃したと言うことだ。

一人で発見して少し興奮気味だった自分は気を落ち着かせ、ここは専門家の判断を仰ぐことにした。困った時の「たびら昆虫自然園」、昨年もお世話になった園長の西澤さんにメールで発見経緯とともに判断を請う。一日経ってご返事頂く


たびら昆虫自然園の西澤です。
ずっと観察していらしたのですね。
この冬の入園者達にはカラタチの枝に付いているナガサキアゲハの蛹を見てもらっていました。12月にはそのうちの一つが寄生蜂にやられ、残りの一つは羽化してくれたらいいと話していました。
ところが、4月になって残りの一つも寄生蜂にやられてしまいました。とても残念です。
さて、◯◯さん(本名)の写真についてご説明すると、無事に羽化したようですね。羽化するシーン、飛び立つシーンなど見逃してしまわれたようですが、無事羽化できたようです。
飼育していてもなかなかそんなシーンに出会えないのですが。
またの機会を楽しみにしてください。
                  
              (2012年5月15日 08:57:32JST)


鑑定結果、ナガサキアゲハは自分の浅学な判断を余所に、人知れず鮮やかに無事羽化し初夏の空に軽やかに舞い上がったようだ。「アハハハハハ・・・・オロカナ人間タチヨ・・・」ナガサキアゲハの声なき声が聞こえて来そうだ。

いやはや、見事にウラをかかれた自分だった。つまり、蛹は蛹の役割を見事に果たしていたということだ。仮死状態で! 決定的な瞬間を観れずブログで紹介出来ずに残念ではあったが、自然の方が一枚うわてであることが痛快で、何より無事に羽化したことが嬉しかった。

何せ、たびら昆虫自然園のプロが管理するところでさえ、全部寄生蜂にやられているのだそう。また、飼育していても羽化のシーンはそうそう出会えないとのことだ。そういうことを考えればここで無事羽化したのは奇跡的なことだと思う。そう思えば確かに雨風はしのげる軒下だし、外部からは敵が侵入しにくい場所だ。ラッキーだったのだと思う。

この鑑定メールを、昨年のように自分のブログでの紹介許可をお願したら再び快諾して頂いた。

 


西澤です。
羽化してくれたという◯◯さんの喜び、私にも伝わりました。
ブログにのせてください。皆さんにもその感激が伝わると思います。ところで、お送りいただいた写真の後の2枚は、楯に割けていましたよね?僕らの体でいうなら首の後ろから手に当たるところまでが割け、首の後ろ側に脱皮したというところです。割けた小さな方を拡大すると3対の脚の跡が見られると思います。
また何かありましたらいつでもご連絡ください。

              (2012年5月15日 13:51:15JST)



かような嬉しいメールも再び有り難く頂いた。
西澤さんがご指摘の、流線型の細長いハッチの裏側を観てみると、確かに3対6本の脚が見事にコンパクトに折り畳まれて収納されていた跡が判る。ムダの無い見事なデザインだ。

空になった蛹を現場から採り、ハッチを取って裏返しにしたもの。(左上)
空になった蛹を現場から採り、ハッチを取って裏返しにしたもの。(左上)

  

   モスラ(ナガサキアゲハ)観察プロジェクトを終えて。

 

 

自分は田舎生まれだし、小さい頃から自然に親しみそれなりの昆虫少年を自負していた。たくさんの昆虫の様々な生態を五感で体感し、それなりに知ってるつもりだった。昨年9月に見つけたナガサキアゲハの幼虫は、モスラのようなヤツが一気に蛹になった。蛹になって落ち着いた後は廻りとの保護色なのか、色も灰緑から黒灰色に変わり、よく見ると小さな青カビのようなものが付着いている様子で全体に干涸びた感じだった。

その佇まいは、その後10月秋が深まり11月晩秋になっても12月冬が到来しても、年が明け1月雪が降っても2月極寒になっても、3月寒い早春になっても4月になってタケノコが生え出しても、全く生体オーラがなく微動だに変わらなかった。

どうやらこれは、その成長過程で何かしらアクシデントがあり残念だが途中でストップしたのだと考えるようになった。ブログに書いて来た手前どうやってシリーズを収束したら良いだろう? 何事もなったかのようにしておくしかない…、等と思っていたものだ。

家のツツジが咲いても何の動きもない。自分はいつしか、サナギがあることさえ忘れ、日々の暮しに埋没していたと思う。まさにそういう矢先の出来事だった。実際4月29日までのそれを観ると、誰が見てもそう思うことと思う。とにかく生きてるという感じが全くないのだ。

しかし、そう思わせた蛹の方が偉かった。昨年9月から翌年5月までだから約9ヶ月、270日。その間、蛹は外敵に無防備状態だ。それを知っているのだろう、見事に生きてる気配を消し外界から身を守ってたのだ。これには全くの脱帽!昆虫にある程度詳しいと思っていた自分に自然からカウンターを食らった感じだった。

 

「フフフ、ストレンジ・Nよ、オマエは何もワカッテハイナイのだ」…と。 

 

またひとつ謙虚になる。

 


どうやって、羽化の準備スイッチが入るのだろう?。たぶん決めては温度なのだろうな。今年は寒い日も多かったからツツジが咲いても羽化に必要な温度に達してなかったのだろう。ではどこでその温度を感知するのだろう? どこかにセンサーがあるのだろうな。SF映画では、遥か昔の古代遺跡のような埃まみれの宇宙船が、或る日インジケーターが点滅して作動し始めるというようなシーンがあるが、そういうイメージを彷彿させ興味深い。

「蛹から蝶に変身」とは、以前とは見違える程に華麗に変化する様を形容すると思うが、あの、全く生きた感じがしない干涸びた枯れ木のようなものから、大型の黒い蝶ナガサキアゲハが生まれるなんて、次元を越えた超変化だと改めて思う。それまでの全く変化ない9ヶ月をずうと知ってるから余計にそう思える。

 

ところで、ここで唐突に「ヒトの体は進化の最終形態なのだろうか?」と自分は思い始める。長い歴史の間、今の体に落ち着いているようだが、果たしてこれが最終の形なのだろうか? 個人的には昨今の地球や宇宙の変化の兆しと共に、ヒトの形態も変化するのでは?と密かに思っている。そしてそこには、それこそ蛹が蝶に変わるように大きな変化があるハズだと・・・。あくまで個人的意見デス。

 

 

そういう訳で昨年9月15日に発見したモスラことナガサキアゲハは約9ヶ月の蛹の時期を経て見事に羽化した。この間に母が亡くなったりしたのでひときわ感慨深いが、何はともあれ、めでたい完結を見れて全く何よりである。

御多忙中、何の面識もない自分の不躾な質問に対しても、真摯で丁寧、さらには自然に対する哲学まで垣間見える回答を頂いた、たびら昆虫自然園の園長、西澤さん、まことにありがとうございました! また、「モスラはその後どうしてるの?」心配してわざわざ電話を頂いた心優しいSさん。ありがとうございました!ずっとコメントを頂いてたUさん、基さんも、ありがとうございました! その他、ネットの向こうで無言で見守って頂いてた皆様、お陰様で無事羽化することが出来ました。ありがとうございます!

 

 

もう誰もが、そして自分でさえ諦めて、その存在さえ忘れかけていたナガサキアゲハの見事な羽化は、何やら行動のみの無言の言葉で不屈の精神を教えられた気がしないでもない。

 

今頃、この初夏の風の中、どの梢あたりを飛んでることだろう。何ということもなく空を眺める自分でアッタ。

 

 

本日もご訪問ありがとうございます。それでも良い事がありますように!

 

(500MB/477MB)


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コメント: 4
  • #4

    planetary-n (月曜日, 28 5月 2012 23:19)

    はなこさん、ありがとうございます!
    そうなのですよ〜、あの!、全く死んだようにしか見えなかった蛹です。 ねぇ〜、信じられんやろ〜?もぉ〜ビックリでした。でも、ちゃんと羽化して本当に何よりでした。

  • #3

    はなこ (月曜日, 28 5月 2012 23:04)

    アゲハついに羽化したのね。驚きました。しっかり生きていたのですね。

  • #2

    planetary-n (金曜日, 18 5月 2012 21:11)

    SASORIZAさん、先頃はお世話になりました!
    久々のブログUPは、モスラ完結編になりました!
    SASORIZAさんの言う通りでしたね。自分は、この目で見て来てると、どうしても羽化するとは信じられませんでした。完全にしてやられたという感じですが、痛快でもありました。ヒトの思惑に関係なく、無事羽化してくれて、まったく何よりだったと思います。久々のブログに即反応して頂きびっくりです。まことにありがとうございます!感謝します。お元気でいて下さい。(ストレンジ・N)

  • #1

    sasoriza (金曜日, 18 5月 2012 19:46)

    ナガサキアゲハ無事羽化出来た事よかったですね。
    一週間前にも気にしてたのですが、電話してみればよかったですね、この五月中には絶対羽化すると信じてました。以前ナガサキアゲハが越冬して五月に羽化したと云うブログ読んだ事が有ったのです。
    写真に撮れなかったのは残念でしたが、ナガサキアゲハにとってはよかったでしょうね!