Good-bye Summer 2011

晩夏の挽歌 〜 橋口昆虫少年譚 −3

110820(土)瞬きしている合間に、2011年の夏が終わろうとしている。夏の終わりはいつも、ドップラー効果のように光速で過ぎ去っていく。

 

小さい頃…その日もいつものように、蚊帳の中を潜り起きて来て、リボンシトロンの広告の入ったラジオ体操の、赤い判子もまばらな出席カードを横目で見ながら、『夏休みの友』をちょっとだけやる。そしていつものように、ルルルン〜すぐ近くの「お宮」と呼んでいた神社から林の中の坂道を抜ける。蝉とり、カブトムシ、クワガタ獲り、「朝イチ」の自分の日課だ。いや、もうそれは、仕事と呼んでも良かったのかもしれない。夏の間、朝、昼、夕、とにかく一日中、惑星ハシグチの森や林の中を、夏草の草原を探索していた。自分は皆勤賞ものだったと思う。

 

その日も、何の疑いもなく、昨日と同じコースを行こうとした時だった。「おや、◯◯ちゃん、蝉トリね。もう蝉はおらんよ、もう夏は終わったばい」林の坂道の向こうから、お隣のおじさんがやって来て、そう自分に言うのだった。

 

「え?おじさん、ドユコト? ナツガ、オワッタ??」小学低学年だったと思う自分は、その時、そう言えば、あたりの様子が昨日までと違う感じに気付いた。一陣の風が自分とおじさんの回りを吹き抜ける。

 

        『ザワン・ザワワワーン』

 

昨日までのそれとはちがう、ひんやりした風だ。風音が向こうの森まで響いている。そう言えば、あんなに五月蝿くらい聴こえたクマゼミの啼き声もしない。「えっ、ナツはオワッタと?ドコイッタと?」自分は、おじさんに聞き返したと思う。「◯◯ちゃん、もう終わったばい…もう遠くに行ったとよ」

 

自分は目の前が真っ暗になった気がした。つい昨日まで、あんなに暑く、いつもの蝉トリに出掛けていたのに…、自分に断りもなしに…「夏は何処へ行ったのだろう…、」少し上の方の、開けた台地あたりまで来て見渡して見たが、あたりにもう夏の気配はない。あっと言う間にアブラセミもミヤマクワガタもオニヤンマも何もかも居なくなってしまった。一斉に、一緒に、南の方に行ってしまったのだろうか?、南って一体何処なのだろう…。ああ、明日から自分は何して遊べば良いのだろう?

 

自分はその日、初めて蝉トリから引き返し、夏の間じゅう使ってくたびれた捕虫網を投げ出し、悲しくて寝た。

 

夏の終わりは、とても仲の良かった友達が、挨拶もせず、そお〜うと引っ越していくような、そんな感じと似ている。何処かに皆んなが楽しく居て夏は続いてる。なのに自分だけがここに残されてるような感覚。何か大切なことを誰か言い忘れたような喪失感…。そういう時、人はホンのしばらく仮死状態になるのだと思う。そして少しばかり年を経るのだ。 さようなら、2011年の夏。

 

         イメージBGM:『夏草の線路 』/ 遊佐未森(1990)

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コメント: 4
  • #4

    planetary-n (金曜日, 09 9月 2011 20:48)

    sasaさん、お久し振りです。お変わりございませんか〜、夏は何とか過ごせましたでしょうか? 書き込みありがとうございます。

    『夏草の線路』を凄く良いと言って頂けて、すご〜〜〜く嬉しいです!自分も此の曲は珍しい程の良い曲だと思っていたからです。ずっとUPしたかったのであります。

    本来は、夏の青春18切符の旅とかに似合いそうなので、そういう時に、と思っていました、或は、夏のMR松浦鉄道画像をあちこち撮って、此の曲でスライドショーにとも。

    しかし、今年は夏旅出来なかったし、松浦鉄道も乗る機会なさそうだし、早く紹介しないと夏は終わってしまうし、来年はどうなってるか判らないので、もう〜むりやりにでもこじつけてUPした次第です(笑)。

    まず曲そのものが良いですね。此の頃の楽曲には珍しく、ケルトっぽいアレンジです。『夏草の線路』というタイトルも良いですし、「鉄っちゃん」は勿論、「廃園趣味」や「工場萌え」ファン等も巻き込みそうです。

     
     いつでもまなざしは眩しすぎる空を越えて
     どんなに離れていても遠く君に続く線路


    JR日本最西端、終着駅の町に住む自分たちには、中々せつない、胸キュンの歌詞では?と思います。PVの画像がまた、何処か吉井をも思わせる風景で良いですね。

    中でも間奏部分の、ハイランド・パイプ(バグパイブ)のような音は、映像とも合っていて、思わず胸を打たれるものがあります。自分は遊佐未森という方、この曲しか知らないのですが、「みんなの歌」も歌っておられるようです。

    ありがとうございます。また、合える日を!
    秋を元気でお過ごし下さい!

  • #3

    sasa (金曜日, 09 9月 2011 00:20)

    今晩は。『夏草の線路 』凄く良いですね。聞いた事ある?いや無いのか?「みんなの歌」を思い出しました。武蔵野でも昨日トンボ見ましよ〜。
    2学期が始まり空いた転校生の席も席替えですぐに埋まり、思い出そうとするとヒグラシの声でかき消されてしまう。えっそんな子いたっけ?不思議な時期です。

  • #2

    planetary-n (水曜日, 24 8月 2011 12:08)

    わっ、佐藤さん、お変わりないですか。書き込みありがとうございます!

    赤とんぼ、(夏茜、秋茜、猩猩蜻蛉、等)は、主に、小川や田圃で育ちます。自分もお米を作っていて、よく蜻蛉の幼虫を見かけたものです。それらの環境が良好であればたくさん育ちますが、昨今は、農薬を使用したり小川が三面側溝で小川でなくなったりですので、昔程多くはないのかもですね。

    昆虫の世界では、絶滅した、或は絶滅寸前の種は、今たくさんいます。植物も同じですね。皆、居心地の悪いこの地球から、いち早く別の新しい惑星?に引っ越しているのかもしれません。地球はそろそろ大掃除の時期を迎えているのだと思います。

  • #1

    佐藤 博昭 (火曜日, 23 8月 2011 23:36)

    夏はまだ僅か残ってるようですよ! 残暑と云う夏!
    もう少し夏を楽しみましょう!
    しかし赤とんぼが少なくなったようですね。
    盆が終わった頃には庭先に数え切れないほど飛び交ってましたがこの二三年数匹しか見なくなりました、これも自然が壊れかけてるのでしょうか?