遥かなる訪問者。

不思議の蝶 - アサギマダラ

1100623(木)曇り 母が退院して来た初めての朝、玄関のポストへ新聞を取りに行くと、視界に何やら大きめの蝶が、文字どおり、ヒラヒラという形容がぴったりの飛び方で、側の網戸あたりにやって来た。その大きさ、その飛び方に当てはまる蝶は一種類しかいない。脳細胞がシナプスを経由し記憶データと現物を照合する。ビンゴ!「アサギマダラだ!」知る人ぞ知る不思議の蝶!新聞はそっちのけで、脱兎の如く部屋に戻り、カメラを持って来て、まだそこにいるソレを、即、連写した。以下その一枚。

アサギマダラ(浅黄斑蝶 Parantica sita niphonica) タテハチョウ科 マダラチョウ亜科
アサギマダラ(浅黄斑蝶 Parantica sita niphonica) タテハチョウ科 マダラチョウ亜科

 
アサギマダラをこの辺りで見たのは、小学6年以来、実に40年振りだ。(その間にも飛来していたと思うが)何故小学6年と覚えているのか?というと、その小学校最後の夏休みの記念にと、蝶の採集標本箱を本格的に作成したからだ。その夏、気合い入っていた自分は(笑)、地域の代表的な蝶はあらかた捕っていた。しかしどうもいまひとつ、人を惹き付ける目玉の蝶がいない。そういう矢先に、ソレは自分の前に現れた。

近所の涼しい山道でのことだ。「あっ、アサギマダラだ!」(この発見の感じは、当時、流行っていた怪獣映画で主人公が怪獣を発見するソレと似ている、笑)自分は目を疑った。珍し過ぎるからだ!アサギマダラは、アゲハ蝶級の大型の蝶。12歳当時、このあたりにはまずいない、南方系の蝶だった。「どうしてこの辺にいるんだ?」その、図鑑でのみ、見覚えのあった丸みのあるシルエット。それが今、眼前に飛んでる! その、あまりにもヒラヒラと、まるで落ち葉が揺れるようにとでも形容しようがない飛び方!「こ、これは捕まえやすいぞ!」

あたりの木立ちの蝉の音は、もはや自分には聴こえず、心臓の鼓動だけが内に響く。ドックンドックン…、持っていた自家製の捕虫網で見事に捕獲。鱗粉の少ない温かな翅の感触、今でも忘れ得ない体験だった…。

 

…2011年6月23日の早朝、眼前に現れたアサギマダラは、40年前と同じく、ヒラヒラ舞いながら、自宅の玄関でひと休みしたい様子だ。一旦そこから離れても、再び玄関脇の窓の網戸に何故かやって来る。

「おはよう、あら、あらら、こんな朝早く何処から飛んで来たの? うん? ひと休みしたいのかな?、どうぞどうぞ、そこが気に入ったかな? いいよ~ん。あのさぁ~写真撮らせてね~。大丈夫、そのままでいいよ~」少しブれたが、何とか収めることが出来た。感謝!

 

 

 アサギマダラは、謎多い不思議な蝶である。

 

他の蝶と大きく違うのは、

1、旅する蝶であること。一年のうちに、日本本土の高原地帯と、南西諸島・台湾の間、遥かな海を渡り、約1000km以上もの驚異的な距離を往復している。
2、春〜夏に南方より北上、秋に再び暖かい南方に戻る。
3、蝶の寿命は4ヶ月位。北上する蝶と南下する蝶は違い、その子孫が再び北上南下する。しかし、どうやってそのルートを子孫に伝えてるのか不明。
4、食草はその土地に年中あるのに、一体何のために、広大な距離を旅するのか全く謎。
5、か弱そうな飛び方、小さな個体で、どうして1000km以上も飛び続けられのか? 方角をどうやって把握するのか?
6、秋の南下は強い偏西風に逆らって行く。どう克服し休憩するのか?
7、海を渡る時、餌はどうしてるのか。夜は何処で休むのか?

とにかく、一体全体、何やってるんだか全く判らない蝶なのである。判ってるのは、とにかく長距離を危険を冒しても旅する蝶であることだけ。


その日の朝、我が家の玄関で遭遇したアサギマダラは、季節はずれの颱風に乗って、遠く台湾あたりから飛来し、ひと休みしていたのだろう。蝶は鳴かないし喋らない。此所へ来るまでどんな風景を見て来て、どんな体験をして来たのだろうか…。蝶に周波数を合わせ、会話出来たら…、驚くべきことが判るのかもしれない。地球の変化についても何か知ってる事だろう。

休むのは何処でも良さそうに思うのだが、どうして早朝、我が家の玄関先に? 昨日母親が退院して来た事と関係ある? …とすると、亡くなった身内の化身? いろんな思いを巡らす自分を他所に、遥かなる訪問者は、何時の間にか、また出発していた。

 

「良い旅を!」

 

本日もご訪問ありがとうございます。それでも良い事がありますように!

 

 

謎の蝶である。(ウィキペディア画像)
謎の蝶である。(ウィキペディア画像)

[アサギマダラ余談]

2009年、飛来調査のため、岐阜県下呂市で放蝶した人と兵庫県宝塚市でその個体を捕まえた人が、2年続けて双方とも同じ人物だった。なお、その個体は9月下旬に放蝶され、10月12日に捕まえられたそう。(ウィキペディアより)

 

 

 

 

 

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